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「聞き屋」~癒し癒されること~

2022.10.06 塾長ブログ

わたしが好んで見るTV番組は、ノンフィクションとドキュメンタリー作品です。BSを含めて、週に4,5本は楽しませてもらっています。

精神面での退化なのでしょうか、読書においてもフィクション(小説)に時間を取ることが極めて少なくなってしまいました。こころの鈍麻、情けないです。

思春期渦中にある生徒たち、その心の機微を察する力が劣化してしまえば、わたしの塾長としての仕事は終わりです。たゆまぬ自己点検と自己陶冶に抜かりがあってはなりません。緊張感を持たねば。

先月、わたしが推す『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ 日曜14時~)で「聞き屋」という興味深い番組が放映されました(最近2週間は、若年認知症に罹患した父親とその家族を追っていました。涙なしに到底見られない、内容のある優れた作品でした)。副題は、「話を聞いてくれる人~空っぽの僕が生きる意味~」とあり、年齢、学校歴非公表の青年、水野怜恩さんが粗末な看板を抱えて、名古屋駅付近で「聞き屋」をしています。

手製の紙看板にはこんな文字が並んでいます。

「聞き屋  あなたの話 無料で聞きます ¥0  自慢 悩み 世間話 愚痴 相談 暇潰し」

わたしのつたない知識からすると、水野さんの「聞き」は、カウンセリングでいうところの「ノン・サジェション」、指示やアドバイスは極力避け、ひたすら傾聴する手法だと思われます。ご本人の弁です。「聞き屋の目的とはその人の悩みや問題を解決させることではないのです。」「聞くという行為により相手を癒す。」「親身になって包み込むように相手の話を聞いて、理解して、共感する。」

「癒す」、ほっとする言葉です。

いろいろな方が来られます。番組では20代の女性が多い印象でした。
話し終わると皆すっきりした表情で、全身で感謝の気持ちを表して、帰宅していきます。
カタルシス、浄化作用ですね。

番組を見ながら、日常の自分を振り返ると、反省すべきことがいくつも出てきます。
なかでも、生徒との関わりがノン・サジェスチョン(非指示的、傾聴)ではなく、どうしても指示的、助言、訓示に終始していることに気づかされます。時間的な制約と塾長としての業務から、「聞き屋」に徹することができていないのが現状です。「もう少し、話を聞いてあげれば…」といった後悔が続いています。ケースバイケースで、ノン・サジェションの流儀も取り入れていかなければなりません。

中高生とは、定期考査のテスト勉強週間に個人面談を入れるようにしています。
保護者の皆様とは、1年を通して面談が行われていますが、春、冬の2回は“お話タイム”として、1人25分ほどの時間をとっています。

何と言っても「聞き屋」のいい所は、見知らぬ人に語るということではないでしょうか。
親をはじめとする近親者や付き合いのある友人、会社の同僚などに知られたくない話もあるでしょう。
無用な心配をさせたくないでしょう。羞恥の対象にはなりたくないでしょう。
漏洩の心配のない見知らぬ人だから、本音や言葉にならぬ言葉が吐ける。吐き散らかせもする。

5年前から「聞き屋」を始めたそうです。1600組以上の人たちに寄り添ってきました。

ふと思い出したのが、2年ほど前になるのでしょうか、慶応義塾大学の学生が「あなたのいばしょ」というNPO法人を設立して、各方面から注目されました。ふれこみは、「日本初、24時間365日無料でチャット相談できる窓口」というもので、9か月間で約3万人以上の相談が持ちかけられたそうです。

この拙論にむかいながら、3点ほどよぎりました。

1つは、いつでもどこでも、「聞き屋」や「あなたのいばしょ」がコンビニに行くように気兼ねなく利用できたら、また「癒し」ということが大切にされるような世の中ならば、前総理は殺害されずに済んだ。あのような容疑者さえ包摂し、癒しを与えられるようなシステムがあれば……。夢物語にはしたくないですね。

2つは、「聞き屋」も「あなたのいばしょ」も20代の若者の提言と行動から成り立っています。そうです、昭和のオヤジ(当然私も含まれますが)や規則にしばられた官僚ではなく、若者たちの自由なる意見を積極的に取り入れ、若者たちにバトンを渡せばよいのです。優れた施策が次々に生まれ出てくることでしょう。よく聞く政府の専門家委員会、こんなものを組織する前に、若者委員会を大々的に立ち上げて、意見交換させればよいのです。専門家などは、そのあとで十分。

3つは、あなた、そしてわたしのすぐそばにいてくれる人への感謝、傾聴、笑顔を忘れないでいましょう。じっくりと向かいあって、その方をおおいに肯定しましょう。

水野怜恩氏の言葉をもう一度。「聞くという行為により相手を癒す」。かみしめましょう。ほんの少しでも実行に移してみましょうか。おそらく水野氏は、相手を癒すことによって自らも癒され、それが生の充実につながる、ということを教えてくれているのかもしれません。

さあ、中学生がやってくる時間です。
冷たい雨の中、ご苦労さん。今日は本当に寒い。
授業のイントロは何にしようか。
出たばかりの絵本、『橋の上で』(湯本香樹実)を読んで聞かせようか。

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