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ふたたび、算数が苦手な子

2022.09.03 塾長ブログ

6月に『算数文章題が解けない子どもたち~言葉・思考の力と学力不振~』(今井むつみ)が岩波書店から出版され、教育専門書としては上々の売れ行きだそうです。 

岩波書店といえば、老舗中の老舗。岩波書店なしにはかつての知識人・教養人は語れないほどの影響力をもった出版社です。今月号の『思想』や『世界』はどうだったか、岩波文庫、岩波新書合わせて何冊読んだか、友人と競ったなどという青い日々の思い出が残っています。

高校時代、たしか倫理・社会の授業で「企業人へのインタビュー」という課題が出されました。
わたしが選んだのは、まぎれもなく岩波書店です。あまりにも不躾なのですが、アポもとらずに直撃の「取材」でした。神保町の本社ビルへ出向いたところ、「やさしく、魅力的で知性たっぷりの女性が対応してくれた」。何十年たった今も、この記憶から離れることができません。こうした女性と気の利いた応接室で1対1の対話をするなんて経験のないこと。手に汗握り、緊張しっぱなしでした。相手の顔を正視するなど、当時17歳のわたしには、情けないかな、できませんでした。取材内容など覚えていません。ただただ品のある女性の所作に心奪われてしまったことだけが、青春の1ページとして深く刻まれているのです。

相手にとってははなはだ迷惑だったろうなと今になって反省しきり。うぶなわたしのつまらぬ経験話をさせていただきました。快く受け入れてくれた岩波書店さん、遅ればせながらありがとうございました。

ついでと言っては何ですが、わたしのスマホの中の写真集、6月19日には「岩波ホール」の入り口が連写されています。何度か訪れた映画館ですが、7月29日をもって閉館されました。高校訪問の帰り道、立ち寄らせてもらいました。残念です。

本題に入ります。

冒頭の本。保護者というより、小学校の先生向けの専門書です。
忙しい先生方や保護者の皆様に代わって、わたしが読んでおきました。

帯には、「すべてのつまずきには原因がある」「すべての誤答には子どもなりの理屈がある」とあります。
この本の特徴的なところは、1つには、教師の経験値というあいまいなものからではなく、調査データに基づき誤答の背後にある原因を「言語力」「数や形の直感的理解」「推論する思考力」から事細かく分析している点にあります。

2つには、「生まれつきのハードウェア(能機能)の良し悪し」といったいわば遺伝的な要因を否定して、算数の能力は「長年の修練」のよって作り上げられるものとしています。その先を引用します。「『修練』というのは、幼児用の教材の推論の問題や記憶の問題などをたくさん解くことではない。日ごろことばを使い、ことばをたくさん覚えながら推論したり、日常のさまざまな生活の体験から「なぜ」を見つけ、因果関係を推論する練習を積み重ねることで鍛えられたものである。」

データから、言葉の力も算数の力も、小学2年生においてすでにかなりの個人差が生まれ、学力の差として表れています。「9歳の壁」です。

ではどうするか?「子どもが学校の学びでつまずかないためにもっとも効果的なことは、就学前から家庭や幼稚園、保育園などで子どもをシームレスに(計画性をもって連続的に~平野注)サポートし、子どものことばと考える力の基盤をつくる環境を整えることである」と力説しています。

さらに、結論的に「ほんものの学力を生む家庭環境」として、3点列挙しています。1つは、「本のある家庭環境」。2つは、絵本の読み聞かせに始まる「読書習慣」。3つは、前記「就学前のことばと数に関する環境の整備」。 

残念ながら本書では、これ以上の具体性のある方法論は述べられていません。

実際、いま小学生で算数の苦手な子はどうしたらいいの?
就学前の家庭環境といっても、親に余裕がない子はどうするの?
幼稚園・保育園という場に「ことばや数」という新たなカリキュラムを導入するの?

本書の第2弾を期待しましょう。できたら、保護者向けのものが欲しいですね。

読書の大切さについてはことあるごと訴えてきました。小学生の授業にも読書、読み聞かせ、要約作業など積極的に取り入れています。興味のある方、ぜひ体験にいらしてください。

昨日(9/2)の「羽鳥慎一モーニングショー」でコメンテーターのすみれさんのお母さん(廣津留真理氏)がゲストで招かれていました。
すみれさんは、大分の公立高校から‘留学経験なし・塾なし’でハーバード大学に現役合格し、首席で卒業した才女です。翌年には、世界で最も優秀な音楽大学のひとつ、ジュリアード音楽院にバイオリニストとして入学しています。いわゆる“Gifted(”ひと昔前であれば“天才児”)ですね。

お母さんは、手広く英語塾を経営しています。英語の参考書だけでなく、子育てのための本も書かれています。

話の中でおもしろかったのは、リビングの真ん中に本棚を置き、できるだけ多く、また様々なジャンルの本を用意したというのです。すみれさんは物心ついたときには、絵本に限らず、図鑑やその他の本に熱中していました。お母さんのざっくばらんな物言いに惹きつけられたのですが、この本棚作戦は一種の「仕込み」だったと告白していました。つまりお母さんの意思で本好きにさせようとしたいわば「思惑」なのだそうです。

「本を読みなさい!」ではなく、親の読書する姿を見せつけ、興味ありそうな本を片っ端から収集して、リビングの中央に備えておく。やりますね、真理ママは。

ユーチューブ、SNS, ゲーム……、時代ですね。一方、『文字文化』の奥深さや大切さも教えていかなければなりませんね。

まだまだ感染者が激減することはありません。ご自愛ください。
読んでいただきありがとうございます。

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