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思春期における孤独について

2018.06.23 塾長ブログ

「もっともっときょうよりかあしたはできるようにするから もうおねがい ゆるしてください おねがいします」 5歳で親からの虐待で殺された結愛ちゃん。どんな思いで書き綴ったのでしょうか。暖房も電灯もない部屋に一人押し込められ、十分な食事も与えられず低栄養失調状態でした。暴力も振るわれていました。胸が詰まります。言葉を失います。無力感にさいなまれます。

虐待死について、日本小児科学会が「年間で推計約350人の子どもが虐待死で亡くなった」との統計を発表しました(2016年)。1日に一人の割合で結愛ちゃんと同じ悲劇が繰り返されているのです。厚労省の集計の3~5倍の数字ですが、同学会は、厚労省は自治体の報告をもとに集計しているため、「虐待死が見逃されている恐れがある」と警告しています。

中高生にこうした事件を話すとき、まず「なんでこんな不幸な事件が起きたと思う?」と問いかけ、何人かに発言を求めます。社会的な関心度の高い生徒ほど、日本社会の負の面にせまった意見を述べますが、自分中心の狭い生活空間にしか関心を持てない生徒ほど、事件そのものを一個人の資質(例えば、虐待した父親の暴力性)に求めてきます。

私は論理学の『特殊と普遍』という話をします。結愛ちゃんの虐待死は、決して特殊な人間が起こした特殊な事件ではなく、日本社会の普遍的な問題が現象化したもの、こうとらえることが大切と。具体的には、非正規労働者や職を失ってしまった人たちの貧困問題、シングルマザーの低賃金問題や健康問題、男性の経済力に依存せざるをえない女性問題、経済的な貧困からもたらされる精神的、社会的な貧困と暴力との親和性の問題、保育所、そして児童相談所のあり方等々、社会政策の未成熟と不備を改善することなしには、虐待死は減少することはないでしょう。「先生は個人的には、結婚だとか家族はいいものだと思っている。子どももかわいい。ただし、そうではない人もいるはず。無理に結婚はしなくてもいいし、子どもが好きになれそうもなければ、つくってはだめ。」こんな一言も付け加えておきます。

以下は女子中学生の投書です。

「私と同じ中学生が1千万円を盗んだ疑いで逮捕されたと聞き、ひとごととは思えなかった。仲間外れにされているように感じていたそうだが、よくある話だと思う。/この事件で感じたのは、中学生の潜在的な孤独だ。SNSでのつながりが大きな力を持ち始めている今日、幅広くつながっているように見えて実際には孤独を感じている中学生は多いと思う。/私自身、たとえ知人でも目の前にいない相手とのやりとりでは「ほんとうはどう思われているのか」と不安になったり、SNS上の陰口に傷ついたりした経験がある。(中略)スクールカウンセラーに相談する手もあるが、カウンセラーの方がつねに学校にいらっしゃるとは限らない。もっと身近に、また気軽に相談ができる場がほしいと心から願っている。」(朝日新聞2018年5月5日)

結愛ちゃんの“絶望的孤独”に対して、“対人的孤独”と名付けておきましょう。「幅広くつながっているように見えて実際には孤独を感じている中学生は多い」という指摘は、その内実はさておき、親としてはおさえておきたい。また、この投書で興味深いのは、「親」という字が一度も出てこない点にあります。親には心配かけられないという思いやりからなのか、親に知られたくないという羞恥心からなのか、あるいは親に相談したところで埒が明かないというあきらめからなのか。

私は思春期、青年期を通して何ひとつ親に相談したことがない変わり者です。すべては結果報告だけです。今となってみればさみしい思いをさせたかな?との後悔は……まったくありませんが。親に相談を持ち掛けない理由は、以上に列挙した3点からです。世代でしょうね、人に迷惑をかけるな、人に頼るな、自分で解決しろ、先輩やおじさん達からよく聞かされたレッスンです。この女子中学生、親を越えたところでものを考えている点、かなり自律的な生活を送っているのでしょう。

さて孤独についてですが、こんな経験があります。50歳をいくつか超えた頃のこと。家庭も仕事も順調で、私的な悩みもこれといってなかったのですが、ある日を境に、週に何度か瞬間的に‘圧倒的な孤独感’‘抑うつ感’に襲われるようになってしまいました。外の空気に触れ呼吸を整えるしかありませんでした。血圧に問題はありません。めまいの症状が若干ありました。もうお気づきの方もおられるでしょう。そうです。男の更年期です。いろいろな知識を取り入れて、数か月で乗り越えることができました。お母さん方、心と体の健康にぜひ留意してください。子どもや夫はさておき、自分自身に投資することを忘れないでください!

話を孤独に戻します。かつて「ランチタイム症候群」だとか「便所飯」という言葉がはやりました。若い人たちは友達がいないとか、仲間の中で外されている、あるいは一人ぼっちでいるということをひどく嫌い、忌避します。女子大生(のごく一部)は、一人、学食でランチをするぐらいなら、トイレの個室で食べたほうがまし、とまで言うのです。

女子大生に限らず、実はむかしから日本人は孤独に弱い民族とされています。欧米社会の個人主義や父性原理に対して、日本社会の集団主義と母性原理。日本人は世間体や人の目を過度に気にする恥の文化のなかにあって、集団や組織を重要視するため(例えば、‘お国のため’‘会社のため’)欧米人に比べ、個の確立が不十分です。集団や権威あるもの(例えば天皇、企業)に強く依存する傾向が強い。孤独に対する弱さは、こうした依存的な個に由来する『個の脆弱さや未成熟』からくるものと考えられます。

孤独に対する弱さのもうひとつの視点は、『自己肯定感』です。これまでの各種調査で、日本の若者は欧米先進国の若者と比べて自己肯定感が低く、現在にも未来にも悲観的で、前向きに生きようとする意欲が乏しいことがわかっています。一般に自己肯定感や自尊感情は、①愛されているという実感 ②自己達成感 この2点から育まれるものとされています。幼児期から思春期にかけて、無条件的な愛と達成経験にどれだけの貯金をもっているかが問われてきます。思春期までに叱責や注意ばかりされてきた子は不幸ですね。愛も達成感も自覚できずにいます。

 

一方、自己肯定感の高い人は、人が好きで、人に優しく、人に好かれます。気持ちが穏やかで、私のようにいたずらに人を批判したり、攻撃したりしません。人と比べるのではなくて、自分の中に確固たる価値基準をもっていて、それに従って行動します。他者との無用な対立はありません。こうした自己肯定感こそが孤独感と対になる概念で、自己肯定感の高い人ほど孤独に対して強い耐性をもち、他者とのつながりを過度に求めることはないのです。一人でも濃密で充実した生活(いわゆる「リア充」)が送れるのです。

さて、“孤独はイヤ、人とつながっていたい”症候群が蔓延しているかと思えば、若者の間では「ひとり焼肉・ひとりカラオケ・ひとりディズニー」なる「ぼっち充」が増えているとのこと。わかるような気がします。SNSは四六時中つきまとってきます。いつも誰かに追われているのです。息苦しさやわずらわしさから一時でも逃げ出したくなるのは人の心理。「ぼっち充」、おおいにけっこう。中学3年生の中には私にスマホを預けに来る生徒がいます。昨年は4名ほどいました。受験生活の邪魔になるのです。「ぼっち勉」を優先させたわけです。

付け加えておきたいのは、思春期・青年期になると「対人的な孤独感」とともに、表現のしようもない漠然とした孤独感に襲われることがあります。私の場合は「存在論的な孤独感」と勝手に解釈していましたが、言うなれば、将来に対する漠然とした不安です。いかに生きていくか、それを突き詰めていく上でのモデルが不在なため、不安感や、孤独感にさいなまれた経験があります。親以外の人的な資本が求められてきます。

 

私の好きな心理学者・諸富祥彦教授からの引用をもって今月のお便りのまとめとさせていただきます。

「私が『いい家庭』の条件の1つとしてあげられるのは、怒りや悲しみといった否定的な感情も安心して素直に出しあえる家庭であることです。そんな家庭が健康度の高い家庭だと思います。こうした家庭では一人一人がお互いに支えあいながら、何とか難局を乗り切っていけるのです。」(『生きるのがつらい「一億総うつ時代」の心理学』平凡社新書)
※個人面談、どうぞいらして下さい。
※夏期講習(予定) 7/22~8/5[全12日間]
※8月集中授業(予定) 8/20~8/31[全9日間:小学部は8日間]

 

教室からのお便り

 

≪小学部≫
・6年生は理科実験が始まり、好評です。ただ、実験マニュアルをしっかり読めていない生徒が
失敗します。読解力の重要性ははかりしれません。
・全学年とも『公立中高一貫校対策 合格への道 作文編』という新しいテキストを使って、記述力を強化する時間を取るようにしました。生徒一人ひとりの語彙力の差が歴然としています。あらためて、読書の重要性を訴えておきます。毎日の読書チェック、忘れずにお願いします!
・じっくり深く考えさせるのがウエルの小学部。ただ、『数独』(9マス×9マス)だけは時間競争。
けっこう‘マジ’で取り組んでいます! 個人通信ファウンテンが在中してあります。
≪中学1年生≫
・初めての定期テスト。勉強の仕方をガイダンスし、塾を最大限に利用するように呼びかけました。
毎日来てテスト勉強する生徒もいました。
・小学生の勉強スタイルから抜けきらず、苦労する場面も多々ありますが、よく頑張っています。
・部活との両立、応援していきます。 個人通信ファウンテンが在中してあります。
≪中学2年生≫
・なかだるみする2年生。友達関係や部活などトラブルにも見舞われます。成績が急降下するのもこの時期です。部活そして塾に休まず通っていれば、ひとまず安心です。口を挟まず、じっくり話や愚痴を聞いてあげてください。
・英語、数学、理科に関しては、各項目ごとに確認テストを入れ、不合格になるとリテストをしています。これが大きな歯止めになっています。皆まじめにリテストに取り組んでいます。
・火・木・土は個人指導が受けられます。大いに利用させましょう。
≪中学3年生≫
・6月、初めてのVもぎ。昨年度の受験者平均は5科目で58、今年度は……。比較しても意味はないですが、何しろ国語が悲惨!毎週、論説文を読ませその要約と意見・感想を書かせてきましたが、これもまた……。読解力、語彙力のなさが目立ちます。厳しいことを言わせていただくと、これは親の監督不行き届きと言わざるを得ません。幼少期の読み聞かせと読書習慣をつけさせることはすべての親の役割です。見るところ、国語力とスマホの使用時間は密に関係しています。小・中学生にスマホは害にこそなれ、益になることは少ない。国語に関しては、これまでとは異なった戦略を打っていかなければならなくなりました。部活終了後ですね。
※中学部は中間テスト期間中に生徒との個人面談を予定していたのですが、各中学のテスト日程があまりにもまばらで、一定の期間に面談を入れることができませんでした。あらためて実施します。
≪高校1年生≫
・入学後初めての定期テスト。クラス1番もいれば、後ろから2番もいます。ともに高校受験を乗り切ったことによる何とも言えない連帯感。いい感じのクラスです。まずは高校に慣れることです。
≪高校2年生≫
・取りあえず週2日にして、早速英語の大学入試問題に取り組ませるようにしました。ウエルでは大学入試の全科目、自己学習ができるようなシステムがあります。夏が過ぎたら週3日の予定です。
≪高校3年生≫
・やるべき作業は自覚しています。部活を引退した生徒は‘山にこもって’長時間学習にむかわせます。一人ひとり丁寧に学習の進捗状況を見届けていきます。上位大にぶち込みます。

※小学生の弟さん、妹さん。早めにウエルに預けてください!
たくさんの作品にあたらせ、読書を習慣化させるようにしています。

 

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