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アメリカ版「9歳の壁」~ゆっくり、じっくりの大切さ~

2022.09.20 塾長ブログ

2022年のアメリカの9歳児の学力が、記録的な低下を示した、こんな報告がなされました。

全米学力調査で小学4年生に相当する9歳の算数と国語の読解力を調べたところ、100点満点で、英語が5点、算数は7点下がり、英語の読解力はこの30年で最も大きく下がり、算数もここまで下がるのは調査を開始して初めて、両科目とも20年前の水準になってしまったと、懸念を示しました。

日本同様、親の経済格差が子どもの学力に直結しています。
黒人、ヒスパニック系の児童の成績の落ち込みが最も激しく、また下位10%の生徒のスコアは英語で12点、算数で10点も低下しています。つまり、成績上位層と下位層を比べると、下位層の子どもたちの落ち込みが際立っているということです。

調査した全米統計センターは、学力低下の原因はコロナによってリモート授業が増えたからだと分析しています。具体的には、成績下位の生徒たちには十分なネット環境があてがわれていないこと、そして、直接、対面で教えてもらったり、質問する機会が少なかったことなどが指摘されています。(日経新聞、朝日新聞、Forbes参照)

教育関係者の方であれば、そくざに「9歳の壁」という言葉が浮かんだのではないでしょうか。

手元の『心理学辞典』(有斐閣 1999年)を引っ張り出すと、大項目のひとつに挙げられ、以下の説明がなされています。やや長いですがそのまま引用します。

「9歳の壁 walls in nine years old 9歳前後になると、学校での学習を理解できない子どもが急激に増加するが、この理解できなくなる年齢を指して9歳の壁ということがいわれている。こうした壁を構成するものとしては、1つには、教科内容の問題であり、9歳前後になると内容がかなり高度化する。(中略)もう1つは、認識の発達の伸びが一時的に低下することがある。これらが重なって壁を構成するとみなされる。」

「9歳の壁」の英訳があまりに直訳過ぎて、おもわず笑ってしまいました。

さて、1つ目の教科内容ですが、特に算数において9歳の壁が論じられることがほとんどです。小3から分数や小数、大きな数、□を使った式などを学びますが、単純な計算問題が中心で、ドリル形式の反復練習をすればクリアーすることは難しくありません。図形も即物的というか、身近なものでイメージするにたやすい。

しかし、4年生になると、分数、少数の四則演算あり、大きな数の計算あり、概数あり、四則融合問題あり、図形は立体が登場します。5年生では最難関のひとつ「割合」(これは中学生もお手上げの生徒が多い!)や「速さ」など目白押し。4年生以降は、具体的・即物的な内容から、抽象度の高い内容に変わっていくのです。抽象的な思考が得意でない子に「9歳の壁」が立ちふさがり、算数・数学嫌いの予備軍が出来上がってしまいます。例えば、単純な分数の計算問題ができても、分数の意味や概念的な理解(割合・比・倍など)ができていないと、文章問題はお手上げです。

もう1点、認識の発達の伸びが9歳前後で、一時的に低下する、この詳細については専門家に任せるとして、とりわけスローラーナー(ゆっくりゆっくりでないと追いつけない子)と関わる際は、念頭に追いておかなければなりません。あせらず、今は一時的停滞期かも、といった寛容でゆっくりズムを大切にする指導が求められてきます。

子どもたちと関わって30年以上が経ちます。いろいろな子と出会ってきました。「9歳の壁」、日々実感しているところです。先日もこんな問題と悪戦苦闘していました。

「ドーナツ屋さんに、ぎょうれつができています。けんたは、前からも、後ろからも28番目でした。何人の人がならんでいるのでしょうか。」

よく見かける問題です。当学院では、小学部は2冊の問題集に取り組みます。1冊は、塾専門出版社作成の問題集で、学校のカリキュラムに合わせて、塾でその復習作業をします。算数が苦手な生徒は、これに多くの時間を取ります。復習が徹底されていない生徒は、わたしが直接個人指導します。2冊目は、これがよくできた進級式問題集で、『成長する思考力』(10級~1級)と言います。飽きのこない頭を使う問題が目白押しです。“算数地頭”をつくるのにはもってこいです(ただし、素人先生が使うとどうかな? 教える側の目的意識と指導方針がしっかりしていないとこなしきれないことも。)

さあ、戻りましょう。「前からも、後ろからも28番目」これをどう考えるかですね。まったくのお手上げの生徒もいます。人型の絵を50体以上書いて、答えを出そうとする子もいます。28+28=56と式を立てて満足げな子もいます。地頭の良い子の中には、28+28―1=55とたやすく正解にたどり着く子も出てきます。「自分を2回数えたことになるので1を引く」あるいは「自分の後ろには27人いることになるので、28から1を引く」と論理的な説明ができます。

どう考えたのか、尋ねます。思考のプロセスを確認し、評価してあげることが求められてきます。わたしに説明している最中に、「あっ、わかった!」と足早に席に戻って新たな立式を試みる子もいます。どうしても解けないときは、決して教えることなくヒントを出します。その子の理解レベルに応じたヒントです。例えば、「ノートに絵をかいて考えてみよう。時間かけていいよ。」「28番目は大きな数字だから、『前からも、後ろからも3番目』として考えてみよう。絵であらわしてもいいよ。」……。

保護者の皆さんはいかがですか。子どもの勉強をみると、けんかになりませんか。子どもはふて腐りませんか。なぜこんな問題ができないのか、イラッときませんか。正直、ベテランのわたしもそれに近いいらつきは時折あります。しかし、プロですから、本人に達成感を与えるような対応の仕方を工夫します。達成感の逆は、無力感です。「学習性無力感」、すなわち、「どうせいくらがんばっても僕にはできない」といったあきらめの境地に立たせてはいけません。最悪の関わりです。子どもは算数だけでなく、勉強そのものに意欲をなくしてしまいます。勉強だけでなく、生きること自体に無気力になってしまったら……。勉強を教える、いや教え込む危険性について親も教師も自覚的でありたいですね。

そこで、「9歳の壁」を念頭に置きながら、保護者の皆様へのアドバイスを次回のブログにてお話しできればと思います。
まとまりのない文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。

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