教え子のA君は、ただいま27歳。フリーターで独身。
高校時代にバンドを組み、勉強そっちのけでロックにのめり込む。
自らの技量よろしく、プロを目指したいと言い出し、卒業後、いたずらに
夢を売る音楽関係の専門学校に入学。
バイトとバンドのダブルBに青春をかけるも、鳴かず飛ばずでアラ・サーを
迎える。
現在は、居酒屋でのアルバイトと2,3か月に1回程度のライブ(もちろん
自費参加での)といった生活がつづく。
すでにお母さんはあきらめの境地。今さら正社員にはなれないし、何の
技術も持っていない、と。高卒時、音楽系の専門学校に入学を許してしまった
ことを深く後悔していました。
A君27歳。”人生上のあせり”と向き合います。きっかけは、バンドマンとしての
自らの力量を’やっと’自覚できたこと、親友の出世話、そして
なによりも母の髪に白いものが目立つようになったこと、だそうです。
リーマン・ショック以降、「雇用や収入が不安定化していて、妻が専業主婦
でいて、家を買えて、子どもを大学に行かせられるように稼げる男性は、
10%しかいない」とまで言われている今日、若者を取り囲む社会・経済
環境は、ほんとうに厳しい。
若者が希望を持って、自分の能力を存分に発揮できない社会は、貧しい。
敗者復活の道が閉ざされている社会は、冷たい。回り道をしても
受け入れてくれるシステムなき社会は、三流国家。
社会批判は措いておくとして、A君にたたき台になってもらい、若者教育論
として、3点ほど強調しておきたいと思います。
まず第1は、論理的思考力を育てていくこと。これには幼少期からの親子間の
対話、そして読書が欠かせません。読書は自己形成や論理力養成の最良の
ものです。
残念ながら、A君は言葉を持たぬ子でした。それゆえ、思考形式も単純で、
矛盾しあう複雑なものを論理の力で仕分けしたりすることが苦手でした。
「バンドを続けたい。だから音楽の専門学校に行く。」といった直線的な思考
から離れることができませんでした。
第2に、自分と向き合う「クセ」を身につけさせること。自分の頭で考え抜くクセ、
とことん悩みぬくクセ、を早期から養いたい。
親が代わって考えたり、悩んだり、すぐにアドバイスを与えたりしては、この
クセはいつまでたっても身につきません。いつまでも大人になれません。
A君には、高校3年の時に、あるいは専門学校終了時に徹底的に悩んで
欲しかった。自分の音楽的才能やわがままを知り、社会情勢や家庭の経済
状況などを加味しながら、今後のあり方を考え抜いてほしかった。
結果論になりますが、親も我が子のバンドマンという「夢」に付き合うことなく、
毅然とした態度でNO!を突きつけるべきでした。
そんな時こそ第3として、親以外のたくさんの大人と積極的な関わり合いを
持たせること。極論すれば、今や若者達は、信頼できる大人との広範囲な
交流なしにはバランス良く育たない、とおさえておいて下さい。
子が二十歳過ぎれば、親の教育的効果は失われます。親の役目として、
信頼できる「おとな」を資源として豊富に持っておくことです。様々な人との
出会い、交流の場数を、可能な限り踏ませてください。
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